<第10-5章:January(5)> Takeo's EYE
  
  自宅への帰宅途中。俺も詩織も口数が少ないなぁ。

  「ちょっと、公園によっていこうか」

  なにげなく出た台詞が、それだった。本当に自分の口からでた台詞なのかどう
  か疑わしかったが、間違いなく俺の口から出た言葉だ。

  「うん・・・いいよ」

  近所の公園は歩いていっても10分とかからない。まぁ、そこからうちまでも
  それほど時間はかからないんだけどな。

  なんで公園なんかに行こうと思ったんだろう・・・そんなことはわかっている。
  ・・・気が重い。

  といったところで、公園にはすぐに着いてしまった。

  「とりあえず、座ろうか」
  「う、うん・・・」

  詩織もなんか困った様子でこちらをうかがっている。

  「・・・」
  「・・・」

  無言の時。進んでいくのは時ばかり。そんな時、口を開いたのは詩織だった。

  「・・・ごめんなさい。武雄君」

  思いもよらない言葉に驚いてしまった。

  「ごめんなさい。公園に寄ろうと思ったの、わたしのせいなんでしょ?わたし
  のこと考えて公園に寄ろう、って言ってくれたんだよね?」

  さすが詩織、だてに10数年付き合っているわけじゃない。他の奴が言ったら
  傲慢以外の何物でもない言葉だが、詩織と俺の関係でならそれが許される、と
  言ったところだろうか。

  「あ、ああ・・・」
  「武雄君を困らせちゃってるね、わたし」
  「う、うん・・・」

  なんだか気の抜けた返事しかしない俺。どう答えればいいんだろう・・・

  「あのね、武雄君。遠慮しないで。わたしのこと気にしなくてもいいから、は
  っきり答えて欲しいの」

  いきなり核心に迫ってきたといった感じだろうか・・・

  「わたし、武雄君のことが好きなの。ずっと、前から。武雄君とはじめて会っ
  て、ちょっとしたくらいかな。お弁当もって遠くの町に出かけたことがあった
  でしょ?といっても子供の時だからそう感じただけで、実際には駅でいったら
  2駅くらいしかなかったんだけどね。ちょっと遠出しすぎて、帰り道がわから
  なくなったことがあったよね。その時の武雄君・・・すごくカッコよかった。
  すごく素敵だった。その時から・・・わたし・・・」
  「詩織・・・」
  「その時からわたし、ずっと武雄君のこと見てた。武雄君より素敵な人なんて
  いない。武雄君が一番だって」

  俺は頭の中が真っ白になっていた。どうすればいいんだ?詩織・・・俺は・・
  ・

  「ううん、いいの。わたしが勝手に武雄君のこと好きになってるだけだし、武
  雄君がわたしのことを好きになってくれたら・・・って思うこともあるけど、
  でもそれはわがままだってわかってるし。今まで通り仲良くしていきたい・・
  ・それだけでいいの・・・」

  詩織の目には光るものが溜まっていた・・・俺は、詩織のことを直視できなか
  った。弱い男だな、俺も。詩織になんていえばいいんだろう。そもそも俺も詩
  織のことが好きなのだろうか。よくわからないんだ。幼なじみとしてなのか、
  それとも・・・いや、詩織のことを好きなのは事実だ。

  どうすればいいんだ・・・俺。しっかりしろ!

  「詩織・・・俺も・・・詩織のこと好きだよ」

  えっ!?といった様相でこちらを見る詩織。しかしその真意を悟ったのかまた
  頭をうなだれ地面を見つめている。

  「だって、こないだ言った『好き』って言葉と同じでしょ?」
  「いや、違う。俺・・・詩織のこと好きだ」

  え?俺、何言ってるんだろう。そんなこと口走っていいのか?確かに詩織のこ
  と好きであることに違いはないが・・・

  徐々に顔を上げてこちらを見る詩織。俺の顔はどうなっているのだろう。鏡で
  見たらすごい顔してそうだな。

  「・・・ありがとう。武雄君。うれしいわ。でも、武雄君にはすきな・・・」
  「は?聞いてなかったのか?」
  「う、ううん。聞いてた、聞いてたよ。でも・・・」
  「俺は詩織のことが好きなんだ。小さい頃から一緒に遊んでいて、俺のことを
  一番に思ってくれている。そんな詩織が好きなんだよ」
  「・・・」

  俺は・・・無意識のうちにそんな言葉を発していた。いや、もしかしたら潜在
  的な気持ちが表面に現れたのかもしれないな。俺だって詩織のことが好きだ。
  それを言葉で表しただけだ。

  「ふふっ。うれしいな。武雄君がわたしのこと好きでいてくれているなんて。
  ちょっとうれしくなっちゃった」

  そう言うが早いか詩織の頬からは涙が。俺は詩織を抱きとめてやる。

  「好きだよ、詩織。ずっと・・・」
  「うん。武雄君。わたしも、ずっと・・・」

  どれくらい時間が過ぎたのかわからない。あたりはすっかり暗くなってしまっ
  ていた。俺の腕の中で詩織は気持ちよさそうに体を預けている。泣くのも止め
  たようだ。いまは落ち着いたのだろう、ほっとした顔だ。こんな感情的な詩織
  を見たのははじめてかもしれない。

  「武雄君の腕の中・・・何年ぶりだろう。覚えてる?」
  「そんなの覚えてるかって」
  「なーんだ、忘れちゃったの?」
  「そんなのいちいち覚えてるわけないだろ」
  「ふふっ、それもそうね」

  なんか気持ちわるいなぁ。で、何年ぶりなんだ?とたずねてみる。

  「知りたい?」
  「ああ」
  「それはね・・・」